加齢に伴う認知機能の低下と認知症
1.認知機能の低下と加齢
認知機能は加齢に伴い低下し、特に流動性知能(記憶や処理速度など)は30歳をピークに65歳以降急激に低下する。
一方で、結晶性知能(知識や経験による理解力や判断力)は加齢してもあまり低下しない。
記憶に関しては、短期記憶とエピソード記憶(体験に基づく記憶)が低下しやすいが、意味記憶(知識)や手続き記憶(自転車の乗り方など)は保持されやすい。
2.加齢に伴う脳の変化
大脳の萎縮は前頭葉と側頭葉で特に顕著であり、記憶や判断能力の低下につながる。
神経細胞の変性によって、老人斑(senile plaque: SP)や神経原線維変化(neurofibrillary tangle: NFT)という病理学的変化が現れる。
これらの変化はアルツハイマー病(Alzheimer’s disease: AD)の特徴であるが、加齢によるものと病的なものの境界は曖昧である。
3.軽度認知障害(MCI)とは
加齢による変化と認知症の中間の状態で、日常生活に支障はないが認知機能が低下している状態。
記憶障害だけでなく、遂行機能や注意、視空間認知の障害も含まれる。
MCIのうち、年間5~15%が認知症に進行し、16~41%が正常に戻る。
4.高齢者の認知症
(1)アルツハイマー病(AD)
- 認知症の原因として、最も頻度が高い。
- アミロイドβ(Aβ)が原因となるSPとNFTを特徴とし、Aβの凝集体(オリゴマー)が神経細胞を障害する。
- 初期症状は記憶障害や見当識障害(今の時間や自分がいる場所が分からなくなる)など。
- 病気の進行は緩やかだが、最終的には日常生活が困難になる。
(2)神経原線維変化型老年期認知症(SD-NFT)
- 海馬領域を中心にNFTが蓄積するが、老人斑がほとんどないタイプの認知症。
- 進行が非常に緩やかで、長く記憶障害にとどまる。
(3) 嗜銀顆粒性認知症(AGD)
- 側頭葉内側部後方領域の萎縮が目立ち、左右差があることが特徴。
- 高齢者における頻度は5~9%と推定され、他の変性疾患(特に大脳皮質基底核変性症)に合併しやすい。
- 記憶障害から始まり、後に頑固、易怒性、被害妄想、暴力行動等の行動・心理症状がみられる。
(4) 血管性認知症(VaD)
- 脳血管障害(脳梗塞や脳出血)による認知症。
- 歩行障害や易転倒性、意欲低下が伴うことが多い。