難聴が認知症のリスクを高める?その因果関係の解明
「最近、テレビの音が大きいと言われる…」、「会話の内容が聞き取りづらいことが増えた…」
そんな“ちょっとした耳の衰え”が、実は脳の健康に大きな影響を及ぼす可能性があると、最新の科学研究が明らかにしました。
難聴と認知症に関連があることは以前から知られていましたが、最新の研究で、難聴が認知症を引き起こすリスクであることが分かりました(因果関係がある)。
これは、難聴を予防・治療することが認知症のリスクを減らすことにつながることを示しています。
🧠 難聴と認知症の“因果関係”が明らかに?
これまで「難聴の人は認知症になりやすい」と言われてきましたが、それは“関連がある”というだけで、本当に「難聴が原因で認知機能が悪くなる、認知症になる」のかははっきりしていませんでした。
そこで、中国の研究チームは「メンデルランダム化解析(Mendelian randomization; MR)」という方法を用いて、遺伝的に難聴になりやすい人が、本当に認知症のリスクが高いのかを徹底的に検証しました。
メンデルランダム化解析とは、遺伝子情報を使って、原因と結果の関係を調べる方法です。たとえば、「難聴がある人は認知症になりやすい」という事実があったとしても、それが本当に“難聴が原因”なのか、単に“年をとっているから両方起きている”だけなのか、はっきりわかりません。
そこでこの研究では、生まれつき決まっている「難聴になりやすい体質の遺伝子」をもとに、難聴になりやすい人は、本当に認知症になりやすいのか?認知機能が下がりやすいのか?を統計的に調べました。
🔬 調査対象は約40万人以上!信頼性の高いビッグデータ研究
研究では、以下のような複数の難聴タイプと、認知症の因果関係を調べました:
・伝音性難聴:音が伝わる過程(外耳や中耳)に何らかの障害があることで音が聞こえにくくなる難聴
・感音性難聴:音を感じ取る部位(内耳や聴神経)に何らかの障害があることで音が聞こえにくくなる難聴
・混合型難聴:伝音性難聴と感音性難聴が同時にみられる難聴
・突発性難聴:突然、左右の耳の一方(ごくまれに両方)の聞こえが悪くなる難聴
これらのタイプと、アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症、前頭側頭型認知症などの関係を、膨大な遺伝子データを用いて解析しました。
📈 「難聴」は“認知症の引き金”だった!
研究の結果、次のことが明らかになりました:
・伝音性難聴は、アルツハイマー病のリスクを高める
・感音性難聴は、意味性認知症のリスクをかなり高める
※意味性認知症:側頭葉に比較的限局する左右差のある萎縮が見られる。物品や人物に関する情報(意味)が思い出せなくなる(名前が言えない、名前を聞いてもそれが何か分からないなど)
・混合型難聴は、レビー小体型認知症と前頭側頭型認知症のリスクを高める
・伝音性難聴と突発性難聴は、全体的な認知機能や流動性知能の低下のリスクを高める
つまり、「耳が聞こえにくいこと」は単なる老化のサインではなく、脳の働きにも直接的な悪影響を与える可能性があるということです。
🧩 なぜ耳のトラブルが脳に影響するのか?
この研究では、難聴と認知症の関係が、次のような要因で“つながっている”ことも示されました:
・孤独感や抑うつ:会話が減ることで気持ちが落ち込み、脳の活動も減少する
・脳の皮質の萎縮:特に内側側頭葉という、記憶や認知に関係する領域が縮小している
これらが、難聴から認知症へとつながる“橋渡し”の役割をしているのではないかと考えられています。
🛡 難聴は「防げる認知症リスク」
この研究が最も伝えたいのは、難聴は予防可能で、介入(治療)できるリスク因子であるということです。
今や補聴器や治療法は大きく進歩しています。「聞こえにくいな」と感じたときに早めに対応することで、将来の認知症リスクを減らせる可能性があるのです。
また、近年では若い人の難聴が増えています。若い頃からの予防で、将来の認知症リスクを大きく減らせる可能性があります。
✅ まとめ:耳を守ることが、脳を守ることにつながる
・「聞こえづらい」は見逃してはいけない“脳からのサイン”かも
・難聴は、レビー小体型・前頭側頭型・アルツハイマー型など、複数の認知症と因果的に関連
・孤独・抑うつ・脳の萎縮などが、その“つながり”の背景にある
・聴力をケアすることが、認知機能の低下を防ぐ第一歩
Jiang, D., Hou, J., Nan, H., Yue, A., Chu, M., Wang, Y., Wang, Y., & Wu, L. (2024).
Relationship between hearing impairment and dementia and cognitive function: A Mendelian randomization study.
Alzheimer’s Research & Therapy, 16, 215. https://doi.org/10.1186/s13195-024-01586-6